求人媒体の掲載状況を継続的に把握したいというニーズは、人材紹介会社にとって自然な発想です。しかし「求人サイトの情報を自動で収集する」という行為には、技術的な話とは別に、利用規約・著作権・不正アクセス禁止法など複数の法律・契約上の論点が絡みます。この記事では、外部サイトから情報を収集する仕組みを検討する際に、必ず確認すべき注意点を整理します。
なお、本記事はスクレイピングという手法自体を推奨するものではありません。対象サイトの利用規約や法令によって可否が大きく変わるため、実施の判断は必ず自社で法的リスクを確認した上で行ってください。
まず確認すべき「利用規約」
多くのWebサイトには利用規約が定められており、その中に「自動的な手段による情報取得を禁止する」といった条項が含まれていることがあります。求人媒体の多くも、掲載されている求人情報の著作権や利用条件について規約で言及しています。
利用規約に反した情報取得は、たとえ技術的に可能であっても契約違反にあたる可能性があり、サイト運営者からアクセス遮断や損害賠償請求などの対応を受けるリスクがあります。情報収集の仕組みを検討する前に、対象サイトの利用規約を必ず確認し、自動取得に関する記載がないかをチェックすることが最初のステップです。
robots.txtが示すものと示さないもの
Webサイトには「robots.txt」というファイルが用意されていることがあり、検索エンジンなどのクローラーに対して、どのページを巡回してよいか・してはいけないかの意向を示しています。robots.txtは技術的な取り決めであり、法的な強制力を直接持つものではありませんが、サイト運営者の意向を示す重要な指標です。
robots.txtで収集を制限している範囲に反して情報を取得することは、サイト運営者の意向に反する行為とみなされる可能性が高く、利用規約違反の判断材料としても扱われます。robots.txtの内容を無視して収集を続けることは、たとえ法律上のグレーゾーンであっても、取引先や業界内での信頼を損なうリスクがある点も踏まえておくべきです。
著作権と不正アクセス禁止法の観点
求人情報そのものは、事実の羅列(職種名・年収レンジなど)については著作権の保護対象になりにくい場合がありますが、求人票の文章表現や、サイトのレイアウト・データベース構造には著作権が認められる可能性があります。取得した情報をそのまま複製して再配布・再掲載する行為は、著作権侵害にあたるリスクが高くなります。
また、ログインを要するページや、アクセス制限を回避して情報を取得する行為は、不正アクセス禁止法に抵触する可能性があります。技術的に可能かどうかと、法的に許容されるかどうかは別の問題であることを常に意識してください。
スクレイピングとAPI・データ提供サービスの違い
外部サイトの情報を扱う方法には、大きく分けて次の3つがあります。
| 方法 | 特徴 | 留意点 |
|---|---|---|
| スクレイピング(独自収集) | サイトのHTMLを解析して情報を自動取得する | 利用規約違反・著作権侵害のリスクが最も高い |
| 公式API | サイト運営者が公式に提供するデータ取得の仕組み | 利用規約の範囲内であれば最も安全性が高い |
| データ提供サービス | 求人情報などを合法的に収集・整備した上で提供する第三者サービス | 提供元がどのような根拠で収集しているか確認が必要 |
公式APIが提供されている場合は、それを利用することが最も安全な選択肢です。APIが提供されていない場合でも、独自にスクレイピングを行う前に、データ提供サービスの利用を検討する余地がないか確認することをおすすめします。ただし、データ提供サービスを利用する場合も、その提供元がどのような法的根拠・契約に基づいて情報を収集しているかを確認しないまま契約すると、間接的にリスクを引き継ぐことになりかねません。RPAなど自動化ツールを使って情報を取得しようとする場合も同様の確認が必要です。自動化の対象業務の選び方については紹介業務の自動化:何から手を付けるかで整理していますので、あわせてご覧ください。
社内で情報収集の仕組みを検討する際の進め方
自社で求人媒体の動向を把握する仕組みを検討する場合、次のような手順で進めることをおすすめします。
- 対象とする媒体の利用規約・robots.txtを確認し、自動取得に関する記載の有無を洗い出す
- 公式APIの提供有無を確認する
- APIがない場合、社内の法務担当や顧問弁護士に相談し、法的リスクの程度を評価する
- リスクが許容できないと判断した場合は、手動での定期確認や、外部のデータ提供サービスの利用を検討する
こうした確認作業を省略して独自の収集の仕組みを構築すると、後になってサイト運営者からの指摘や契約解除といった事態につながる可能性があります。求人媒体の動きを営業に活かす具体的な方法については求人モニタリングツールの選び方と活用法でも扱っていますが、いずれの方法を選ぶ場合も、対象サイトの規約確認を省略しないことが前提になります。外部データを営業判断に使う際の一般的な考え方はインテントデータとは:BtoB営業での使い方でも整理しています。
収集した情報の社内利用における注意点
仮に適法な方法で求人情報を収集できたとしても、その情報を営業活動でどう使うかにも配慮が必要です。取得した求人情報をそのまま複製して自社の資料や別のWebサイトに転載する行為は、著作権侵害にあたる可能性があります。社内での営業トークの参考情報として使う分には問題になりにくいですが、外部に公開する資料やコンテンツに転用する際は、事実情報の要約にとどめ、原文の表現をそのまま使わないよう注意してください。オウンドメディアでの情報発信を検討している場合は、人材紹介のオウンドメディアもあわせて参考にしてください。
判断に迷ったときの相談先
利用規約の解釈や、対象サイトの構造から法的リスクの程度を自社だけで判断するのは容易ではありません。契約書のレビューを依頼している顧問弁護士がいる場合は、情報収集の仕組みを構築する前に一度相談することをおすすめします。顧問弁護士がいない場合でも、IT法務やインターネット関連の法律相談に対応している専門家に、実施を検討している収集方法の概要を伝えて意見を求めることができます。
社内だけで「グレーだから大丈夫だろう」と判断を進めてしまうと、後になって取引先や対象サイトの運営者との関係悪化につながるリスクがあります。特に、取得した情報を使って営業活動を行う場合、対象サイト側から見れば自社サービスの利用者(掲載企業)への営業行為とも取られかねないため、判断に迷う場合は実施を見送るか、専門家の確認を経てから進める姿勢が重要です。
自社で判断すべき許容度の考え方
法律相談を経たとしても、最終的にどこまでのリスクを許容するかは経営判断になります。次のような観点を整理しておくと、社内での意思決定がしやすくなります。
- 情報収集によって得られる営業上のメリットは、想定されるリスクに見合っているか
- 対象サイトから指摘を受けた場合、即座に収集を停止できる体制があるか
- 万が一トラブルになった場合、会社の信用にどの程度の影響が及ぶか
これらを踏まえた上で、リスクが許容できないと判断すれば、手動での定期確認や外部のデータ提供サービスの利用など、より安全な代替手段を選ぶ判断も十分に合理的です。
まとめ
求人情報の収集を検討する際は、利用規約・robots.txt・著作権・不正アクセス禁止法という複数の観点から法的リスクを確認する必要があります。技術的に取得できることと、法的・契約的に許容されることは別問題です。公式APIの有無を確認し、ない場合は法務担当への相談やデータ提供サービスの活用を検討するなど、安易に独自のスクレイピングに踏み切らない慎重な判断が求められます。